大学時代、サークルの仲間と旅行に行った時のことだ。その旅行は、学生最後の思い出として計画されたもので、山奥の古い旅館を貸し切り、一泊することになっていた。
参加者は私を含めて8人。皆仲が良く、特にトラブルもなく楽しい旅行になるはずだった。だが、その夜、私たちは決して忘れられない体験をすることになる。
目次
古びた旅館
その旅館は山奥にひっそりと建っていて、趣があるが少し不気味な雰囲気もあった。大広間と8畳ほどの和室がいくつかある造りで、2階建てだ。貸し切りなので周囲を気にせず騒げるのが魅力だった。
到着すると、私たちはそれぞれ荷物を置き、大広間に集まった。人数を確認して、誰かがこう言った。
「全員揃ってるな。これで8人だ。」
私は「当たり前だ」と笑いながら、その言葉を深く気にしなかった。だが、夜になって宴会が始まると、奇妙な出来事が起こり始めた。
人数が多い?
宴会は順調に進み、酒やおつまみで盛り上がっていた。途中で誰かがビールを追加しに台所へ行き、戻ってきた時にこう言った。
「さっき、誰か台所に来た?」
みんな首を振る。「いや、誰も行ってないよ」と答えると、その人は首をかしげて言った。
「いや、だって台所に誰かいたんだよ。後ろ姿だけ見えたけど、てっきり誰かが先に来たのかと……」
一瞬空気が凍ったが、誰かが冗談めかして言った。
「気のせいじゃない? 酔っ払ってんだよ。」
その場は笑いに包まれたが、私の胸には小さな違和感が残った。
9人目の気配
宴会が終わり、それぞれが自分の部屋に戻った。私は一人で部屋にいたが、隣の部屋から笑い声や話し声が聞こえてきた。
「まだ話してるのか。元気だな……」
そう思いながら布団に入りかけた時、ふと話し声の内容が耳に入った。
「今、何人いる?」
「え? 9人だけど?」
「は? お前酔ってんのか? 俺たち、8人だろ?」
その瞬間、血の気が引いた。隣の部屋では明らかに人数を確認する声が聞こえてきたが、その数が合わない。私は急いで隣の部屋に向かうと、全員が青ざめた顔をしていた。
全員で確認するが……
「全員で確認しよう。」
誰かが言い出し、一人ずつ名前を呼びながら確認を始めた。確かに私たちは8人だった。誰かがふざけた可能性もあるが、妙な緊張感が漂い始めた。
「9人いるように見えたのは気のせいだろう。」
「でも、台所の件もあるし、なんか気味悪いよな……」
その場は何となく流される形で解散となり、皆それぞれの部屋に戻った。
翌朝の“ズレ”
翌朝、私は妙な疲労感を抱えながら起きた。旅館を出発する前、再び全員で集まり人数確認をしたが、確かに8人いた。
「やっぱり気のせいだったんだよ。」
そう言いながら荷物を持ち、旅館を後にした。
だが、駐車場で全員が車に乗り込んだ時、最後尾に座った友人が突然声を上げた。
「おい……後ろの席……、9人いるんだけど……!」
その言葉に全員が凍りついた。振り返ると、そこには見たことのない男性がこちらをじっと見ていた。
消えた“誰か”
全員がパニックになり、慌てて車を降りた。しかし、もう一度振り返ると、車内には誰もいなかった。
「今、確かに見たよな?」
全員がその場で言葉を失った。結局、その後は何も起こらず、それぞれ家に戻ることができたが、あの旅館のことを思い出すと今でも背筋が寒くなる。
人数が合わない瞬間――それが何を意味していたのか、いまだに分からない。ただ一つ確かなのは、あの「ズレ」が示していたのは、私たちの中に“本来いないはずの誰か”が紛れ込んでいた、ということだ。
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