私は不動産業界で働いている。主に賃貸物件を扱い、空室を埋めるために日々奔走している。お客様に物件を案内し、契約が決まると達成感があるが、時折「訳あり物件」を担当することもある。
これは、私がかつて担当した物件で体験した、忘れられない出来事だ。
目次
問題の物件
その物件は駅から徒歩10分、築30年ほどの古いアパートだった。古いとはいえ、家賃が安く立地も悪くないので、学生や単身者に人気のある物件だった。
しかし、1部屋だけ、何度案内しても契約が決まらない部屋があった。2階の201号室。2年以上も空室が続いており、上司から「何としても契約を取れ」とプレッシャーをかけられていた。
外観や間取りに問題はない。家賃も相場より少し安く設定されている。それなのに、内見に来たお客様はみんな一様に「やっぱりやめておきます」と口を揃えて断るのだ。
違和感のある内見
ある日、私は201号室の内見希望者を案内することになった。30代前半の男性で、一人暮らしを始めるための部屋を探しているという。
物件に到着し、鍵を開けて中に入ると、男性は静かに部屋を見回した。
「明るさも悪くないですね。」
「そうですね。日当たりもいいですし、リフォーム済みなので清潔感もあります。」
一見して何の問題もなさそうだった。ところが、男性は部屋の奥に進むにつれて、少しずつ顔を曇らせていった。
「……なんだろう、この音。」
彼がそう言った瞬間、私も耳を澄ませた。
ギ……ギ……ギ……
微かにだが、何かが軋むような音が聞こえた。
音の正体を探す
「音ですか? どこから聞こえるんでしょうかね。」
私は部屋中を歩き回り、音の発生源を探した。窓を開け、床を踏みしめ、天井を見上げたが、音がどこから聞こえてくるのか分からない。
しかし、内見者の男性は明らかに落ち着かない様子だった。
「……すみません、やっぱり別の物件にします。」
そう言い残して、彼は足早に部屋を出て行った。
その後、一人になった私はもう一度音を確かめた。確かに微かなギ……ギ……という音が部屋全体に響いているようだったが、原因が分からないままその日は物件を後にした。
深夜の確認作業
その出来事が気になり、私は業務が終わったとの深夜に一人で201号室を訪れることにした。音の原因を突き止めなければ、この部屋を契約させるのは難しいと思ったからだ。
夜中の静けさの中、部屋に入ると例の音が再び聞こえた。
ギ……ギ……ギ……
昼間よりもはっきりと聞こえる。それは天井から聞こえているようだった。
「天井裏か?」
脚立を借りてきて点検口を開け、中を覗いてみた。懐中電灯で照らすと、埃まみれの空間が広がっていたが、特に異常は見当たらない。
「なんだよ、気のせいか?」
そう思い、脚立を降りようとした瞬間だった。
目が合う
突然、音がピタリと止んだ。部屋全体が静まり返る中、天井裏の奥の方で、何かが動いた気配がした。
私は恐る恐る再び天井裏を覗いた。懐中電灯の光を当てると、奥に何かがある。
それは、人の目だった。
真っ黒な目が、じっとこちらを見つめていた。
「うわっ!」
私は慌てて脚立から降り、点検口を閉じて外へ飛び出した。心臓がバクバクと鳴り、冷や汗が止まらなかった。
過去の出来事
翌日、私は恐る恐る上司にそのことを相談した。すると、彼は渋い顔をしながらポツリと言った。
「……201号室な。実は、数年前に住んでいた女性が、天井裏で亡くなっていたことがあるんだ。」
彼女は住人の失踪届が出され、数日後に天井裏で発見されたという。どうやら、自分で隠れたのか、誰かに追い詰められたのか――詳しい事情は分かっていないらしい。
「それ以来、あの部屋はなんとなく敬遠されてるんだよ。」
その後の201号室
それ以降、私は201号室の担当を外してもらった。あの軋む音が何だったのか、あの「目」は何を意味していたのか、いまだに分からない。
ただ、あの部屋に足を踏み入れる度、全身に感じた異様な冷たさだけは、今でも忘れることができない。
もしあなたが物件を探す際、妙な音がする部屋を見つけたら――その音が何を意味しているのか、少しだけ注意を払った方がいいかもしれない。
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