目次
小さな町での噂
これは、私が大学時代に友人から聞いた話です。友人の地元には、少し奇妙な噂がありました。その町に住む人々が、自分の「唯一の取り柄」を失うというのです。
「絵が得意だった人が、突然全く描けなくなったり、スポーツで活躍していた人が身体の動きが鈍くなるって聞いたことない?」
友人は冗談交じりに話していましたが、その目はどこか本気でした。
その話を聞いた当時の私は、「ストレスや環境の変化で得意なことができなくなるのでは?」と軽く受け流しました。しかし、その後、実際にその町を訪れたことで、この噂がただの作り話ではないと知ることになったのです。
町での奇妙な現象
大学の夏休み、友人の実家に泊まることになりました。その町は自然豊かで、一見するととても平和そうな場所です。しかし、町を歩いていると、何かが引っかかる感覚がありました。
道端で出会った老人が、「若いころはピアノの天才と言われていたんだが、ある日急に弾けなくなった」と話したり、喫茶店のマスターが「自慢だった記憶力が、ある日突然なくなった」とぼやいたり。
「どうしてこんな話が多いんだろう?」と疑問に思いながらも、友人に尋ねると、彼は少し不安そうな顔をしました。
「この町にはさ、誰かの“取り柄”を奪う何かがいるって言われてるんだよ。」
奪われた取り柄
友人の話によると、取り柄を奪われた人々には共通点があるそうです。それは、町外れにある「赤い橋」に近づいた人たちだということ。
「橋を渡ると、自分の得意なことが突然できなくなる。だから、あの橋には近づくなって言われてるんだ。」
そんな話を聞けば、普通は橋に近づかないでしょう。でも私は、なぜかその橋が気になってしまいました。好奇心に負けてしまったんです。
赤い橋での出来事
次の日の夕方、私は友人に黙ってその赤い橋を見に行きました。橋は古びていて、周囲には誰もいません。風の音だけが耳に響き、どこか不気味な雰囲気が漂っていました。
橋を渡るつもりはなかったのですが、橋の中央に差しかかった瞬間――突然、頭の中が真っ白になりました。
「何かが引き抜かれるような感覚。」
それは一瞬の出来事でしたが、戻ってから違和感に気づきました。私は子どものころから文章を書くことが得意で、それが唯一の取り柄でした。しかし、戻って日記を書こうとすると、言葉が思い浮かばない。文章が全く書けなくなっていたのです。
奇妙なノート
ショックを受けながら、友人に事情を話すと、彼は困った顔をしながら「やっぱり行ったのか……」と呟きました。そして、あるものを見せてくれました。それは、町に古くから伝わる奇妙なノートでした。
ノートには、町で取り柄を失った人々の名前と、その失われた能力が細かく記録されていたのです。
「見ろよ、ほら。このリスト、最近の名前も書いてあるんだ。」
そこには、昨日まで会った人々の名前と、その失った能力。そして……私の名前も。
「〇〇(私の名前):文章を書く能力」
取り戻す方法
友人によると、取り柄を失った人が元に戻ることはほとんどないそうです。しかし、ごく稀に「橋の向こう側に行き、何かを見つけることで取り柄が戻った」という話も伝わっています。
私は迷いました。このまま取り柄を失ったまま生きていくのか、それとも再び橋を渡るべきなのか――。
結局、私は橋に近づくことは二度とありませんでした。文章を書く能力が失われたままですが、不思議とそれを受け入れることができました。まるで、何かに導かれていたような気がしてなりません。
町を離れても残る恐怖
それから数年後、私はその町を離れました。もう赤い橋に行くこともありませんし、文章を書くこともありません。しかし、あのリストに自分の名前が記されていたことを思い出すと、今でも背筋が寒くなります。
もしあなたがどこかで「赤い橋」という噂を耳にすることがあれば、近づかないことをお勧めします。取り柄を奪われた後では、もう元には戻れないかもしれません。
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