目次
山頂で見た不思議な光景
私は休日に登山をするのが趣味で、普段は近場の低山を登って気分転換をしています。その日もいつものように早朝から出発し、人気の少ない山に向かいました。天気は快晴、頂上に着いた頃には周囲一面に広がる青空と、真っ白な雲海が見事な風景を作り出していました。
「今日はいい写真が撮れそうだな。」
カメラを取り出して何枚か撮影し、ゆっくりと雲海を眺めていると、不意に違和感を覚えました。
「ん?あそこだけ、雲が動いてる……?」
雲海の中に、まるで生き物のように動いている部分があったのです。風で流れているのとは違い、特定の場所で雲がぐるぐると渦を巻くように回っています。
霧に包まれる山道
興味を惹かれた私は、雲の渦が見える方向に下りていくことにしました。普段なら帰り道を間違えるのが怖いので決まったルートを守るのですが、その日はなぜか「行ってみなきゃ」という気持ちに駆られたのです。
しばらく進むと、霧が立ち込めてきました。先ほどまでの晴天が嘘のように視界が悪くなり、足元が見えづらくなります。
「やばい、引き返した方がいいかな……」
そう思った瞬間、霧の中に薄く光るものが見えました。それはまるで道しるべのように輝いていて、不思議と「怖い」という感覚はありませんでした。むしろ、その光を追いかけたくなるような、引き寄せられる感覚がありました。
雲の中の不思議な世界
光を追って進むうちに、気が付くと周囲が一面の白い雲に包まれていました。まるで現実の世界から切り離されたかのように、木々も足元の地面も見えません。ただ一面に広がる真っ白な空間に、自分が浮かんでいるような感覚です。
「ここはどこだ……?」
歩いても歩いても、同じ風景が続きます。不安になり始めた頃、霧の中から古びた木のベンチが現れました。こんな山奥にベンチなんておかしいと思いつつも、足が自然とそちらに向かいました。
ベンチに座ると、不思議なことが起きました。突然、周囲の霧が晴れ、遠くに知らない街が広がっているのが見えたのです。
知らない街
その街はどこか懐かしさを感じる風景でした。木造の家々が並び、道端では人々が楽しそうに話している。けれども、よく見るとどこか違和感があります。服装や建物のデザインが古めかしいのです。まるで昭和の初期か、それ以前の時代にタイムスリップしたような……。
「ここは一体どこなんだ?」
立ち上がって街の方に向かおうとすると、不意にどこからか声が聞こえました。
「ゆっくりしていくといいよ。」
驚いて周囲を見渡しましたが、誰もいません。ただ、雲の流れる音とともにその声が耳に残ります。
戻るべきか進むべきか
街に近づくか、それとも引き返すべきか迷いました。しかし、奇妙なことに「戻る」という選択肢が頭に浮かばなくなっていたのです。気づけば足は街へ向かって進んでいました。
街に足を踏み入れると、住人たちが皆こちらを笑顔で迎えてくれました。「初めてのお客さんかい?」と話しかけてくる人々。どこか穏やかで、安心できる雰囲気に包まれていました。
しかし、街のどこを歩いても空には白い雲が覆いかぶさっていて、日差しは一切届いていません。気味悪さと心地よさが入り混じる奇妙な感覚の中、ふと時計を見ると、もう夕方を過ぎているはずなのに時間が進んでいませんでした。
元の世界へ
どれくらい街を歩いていたのか分かりませんが、不意に体がふわっと浮く感覚に襲われました。そして次の瞬間、私は元の山道に立っていました。先ほどの街やベンチは消え、周囲はいつもの風景に戻っていました。
「夢だったのか……?」
腕時計を見ると、実際には30分しか経っていませんでした。しかし、街で過ごした時間は確かに何時間もあったはず。帰宅後もあの街の光景が頭から離れませんでした。
雲が教えてくれたこと
それからというもの、雲を見るたびにあの日の出来事を思い出します。あの街が何だったのかは分かりません。ただ、あの日以来、私は雲を見る目が変わりました。
「もしかしたら、またあの街に行けるかもしれない。」
そんな思いを抱えながら、私は今でも山を登り続けています。次にあの雲に出会える日が来るのを、心のどこかで期待しながら。
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