怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

風の強い家の話 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その家は、私が小学生の頃に住んでいた町外れの道を少し入ったところにあった。今思えば奇妙な場所に建っていた家だった。周囲は田畑ばかりで、最寄りの家まで数百メートルも離れている。ぽつんと建つその家は古びていて、窓ガラスはひび割れており、屋根には苔が生えていた。

しかし、その家の一番の特徴は「風」だった。

その家だけが風の中にある

どんなに穏やかな日でも、あの家の周囲だけは常に強い風が吹いていた。まるで家そのものを中心に風が渦を巻いているようだった。

子どもたちの間では「風の家」と呼ばれ、その家に近づくことはタブーとされていた。特に怖がりだった私は、友人たちと一緒でもあの家の近くを通るのが嫌だった。

ある日、学校の帰り道、友人のタカシが言い出した。

「なあ、あの風の家、誰が住んでるか見に行こうぜ。」

冗談半分の提案だったが、タカシがその場を仕切るタイプだったこともあり、私は嫌々ながらついていくことになった。

不気味な家の調査

夕方、私たちはその家の前に立っていた。近づくにつれて風が強まり、草木が激しく揺れている。家の古びた外壁には、風によって吹き付けられた砂や葉っぱがこびりついていた。

「やっぱりおかしいよ、この家……」

私は怖気づいていたが、タカシは意気揚々と家の周りを歩き回り、窓から中を覗き込んだ。

「誰もいないみたいだな。」

彼がそう言いかけた瞬間――風の音が不自然に止んだ。

静寂の中で

「……え?」

あれほど強く吹いていた風が、ピタリと止んだのだ。耳が痛くなるほどの静けさが辺りを包み込む。タカシも私も、何も言えずに立ち尽くしていた。

すると、家の中から「カタン……」という物音が聞こえた。

「……誰かいるのか?」

タカシが小さな声でつぶやく。私は怖くなり、帰ろうとタカシの腕を引っ張ったが、彼は「ちょっとだけ中を見てくる」と言って聞かなかった。

家の中へ

タカシが家の中へ足を踏み入れた時、再び風が吹き始めた。ただし、先ほどの風とは違って、まるで家の中から外へ吹き出してくるような風だった。

私は外で待つことしかできず、必死にタカシを呼んだ。

「早く出てこいよ!」

しかし、タカシは返事をしなかった。中は暗く、窓から覗いても奥がよく見えない。私は恐怖心を押し殺し、玄関の方へ近づいて「タカシ!」と叫んだ。

その瞬間、家の中から冷たい風が一気に吹き出し、私は後ろへ転んでしまった。

タカシの行方

気がつくと、風は再び止んでいた。静まり返った家の中からタカシが出てくる気配はなかった。

「タカシ! 出てきてよ!」

何度も叫んだが、返事はなかった。泣きそうになりながら、近くの大人を呼びに行き、数人の大人と一緒に家へ戻った。

しかし、家の中をくまなく探してもタカシの姿はどこにもなかった。

その後の出来事

タカシは行方不明のままだった。警察も動いたが、何の手がかりも得られなかったという。その後、あの家はさらに近づくことが禁じられ、町の人々の間でも「近づくと呪われる」と噂されるようになった。

私自身もあの出来事がトラウマになり、家族の転勤を機にその町を離れることになった。

現在の「風の家」

大人になった今でも、時折あの「風の家」を思い出す。ネットで調べてもその家に関する情報はほとんど出てこず、タカシの失踪事件も忘れ去られているようだった。

ただ、一度だけ地元に帰省した際、あの家の場所に行ってみたことがある。そこにはもう家はなく、更地になっていた。

しかし、不思議なことに、その場所だけは他の場所と違ってやはり強い風が吹いていた。

「タカシ……お前は、あの風の中にいるのか?」

私は、ただその場所で吹き続ける風を感じながら、呆然と立ち尽くしていた。



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