怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

夜中に響く鈴の音が導く異世界 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

夜中、ふと目が覚めることが増えたのは、引っ越してきたばかりのこの部屋に住み始めてからだった。

新しいアパートは静かな住宅街にあり、築年数も浅い。駅からも近く、周囲にはコンビニやスーパーもある便利な場所だった。家賃も手ごろで、私は何の不満もなかった――最初の頃は。

ある晩、深夜2時過ぎだっただろうか。

「チリン…」

どこからともなく、鈴の音が聞こえてきた。

最初は風鈴だろうと思った。だが、その音は妙に近くて、生々しい響きだった。

【繰り返される鈴の音】

それからというもの、深夜になると、あの鈴の音が聞こえるようになった。

毎晩、決まって深夜2時頃になると、静まり返った部屋に「チリン…」という音が響くのだ。

「どこから鳴ってるんだ?」

不思議に思い、窓を開けて周囲を見渡したが、誰もいない。風鈴のようなものが吊るされているわけでもないし、風が強いわけでもない。

最初は気にしないようにしていたが、数日が経つと不気味さが増してきた。

特に恐ろしかったのは、音の位置が少しずつ近づいているように感じたことだ。

初めは遠くから聞こえていた鈴の音が、次第に窓の外、そして部屋の中から響くようになってきたのだ。

【不安な夜】

その夜も、やはり「チリン…」という音が鳴り響いた。

「やっぱり中から聞こえる…。」

私は意を決して、部屋の中を隅々まで探した。カーテンの裏、押入れの中、ベッドの下――どこを探しても、鈴など見つからない。

だが、音は確かに耳元で響いている。

その音は、まるで私をどこかへ誘導しているかのようだった。

【鈴の音を追って】

次の日、深夜2時。再び鈴の音が鳴り響いた。

しかし、その日はいつもと少し違っていた。音が明らかにドアの外から聞こえてくるのだ。

「チリン…チリン…」

好奇心と恐怖心が交錯する中、私はドアを開けてみることにした。

廊下には誰もいない。ただ、鈴の音は確かに聞こえる。音のする方向へ足を進めると、エレベーター前で止まった。

エレベーターのボタンを押すと、すぐにドアが開いた。

しかし、奇妙なことに、エレベーターの中は暗闇に包まれていた。普段なら灯りがついているはずなのに、その日は何も見えなかった。

だが、鈴の音はその中から鳴り響いていた。

【異世界への扉】

足がすくみそうになるのを無理やり抑え込み、私はエレベーターに乗り込んだ。

「チリン…」

音はさらに奥へ、そして下へと導いているようだった。エレベーターのボタンを見ても、通常の階数表示は消え、見慣れない文字が浮かんでいた。

「地下へ」

おそるおそるボタンを押すと、エレベーターは不気味な音を立てながら動き始めた。

「地下?でも、この建物に地下なんてあったか?」

疑問が頭をよぎるも、エレベーターは止まらない。そして、やがてドアが開いた。

【異世界の風景】

エレベーターのドアが開いた先は、見たことのない場所だった。

薄暗い空間には、無数の鈴が吊るされていた。風もないのに、それらが揺れて「チリン…」と音を立てている。

周囲には誰もいない。だが、奥の方にぼんやりとした光が見えた。

鈴の音に導かれるように、私はその光の方へ歩き出した。足元には枯葉が散らばり、カサカサと音を立てる。

やがて、光の中に人影が見えた。それは、和装をした少女だった。

【鈴の正体】

少女は鈴を手に持ち、無表情で私をじっと見つめていた。

「…あなたは、何者?」

声をかけても、少女は何も答えない。ただ、鈴を鳴らし続ける。

すると、周囲の鈴が一斉に揺れ始め、空気が震えるような音が響き渡った。

「チリン…チリン…」

その音が頭の中にまで響き、気が遠くなりそうになる。

次の瞬間、少女は一言だけ呟いた。

「帰れないよ。」

【元の世界へ】

目を覚ますと、私は自分の部屋のベッドにいた。

あの鈴の音も、少女も、すべて夢だったのかと思ったが――机の上に、小さな鈴が置かれているのを見つけた。

それは、あの暗闇の中で見た鈴と全く同じものだった。

あれ以来、夜中に鈴の音が聞こえることはなくなった。だが、あの鈴が置かれた日のことを思い出すたび、背筋が冷たくなる。

もし、深夜に鈴の音が聞こえてきたら――それに従うかどうか、慎重に考えた方がいい。異世界の扉が、あなたを待っているかもしれない。



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