怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

古びたおもちゃのささやき 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

俺の実家には、物置として使われている小さな部屋がある。

使わなくなった家具や壊れた家電、昔のアルバムや古い雑貨が雑然と積み上げられ、誰も足を踏み入れない場所だ。

ある日、久しぶりに実家へ帰省した俺は、母親に頼まれてこの物置の整理をすることになった。

埃っぽい空気の中で古いダンボールを開けていくと、その中から一つのおもちゃが出てきた。

それは、小さな木製のゼンマイ人形だった。

【奇妙なゼンマイ人形】

その人形は、くすんだ赤い服を着たピエロのような姿をしていた。

背中にはゼンマイを巻くネジがついており、試しに少し巻いてみると、ギギギ…と鈍い音を立てながら動き出した。

「カタ…カタ…」

ぎこちなく首を振りながら、ゆっくりと腕を動かしている。

「なんだ、まだ動くのか。」

そう思いながらも、どこか不気味な雰囲気を感じた。

だが、もっと気になったのは、その人形を見た瞬間に感じた妙な既視感だった。

「…俺、これ見たことあるか?」

【思い出せない記憶】

母親に聞いてみたが、「そんなおもちゃ、家にあったかしら?」と首をかしげるだけだった。

俺が幼い頃に遊んでいたものなのかもしれないが、どうしても記憶にない。

「ま、いいか。」

軽く埃を払ってから、俺はその人形を持ち帰ることにした。

【夜中の異変】

その晩、俺は自分の部屋で布団に入りながらスマホをいじっていた。

すると、どこからかカタ…カタ…という音が聞こえてきた。

「…何の音だ?」

気のせいかと思ったが、明らかに部屋の中から聞こえる。

ハッとして机の上を見ると――そこには、ゼンマイを巻いていないはずの人形が動いていた。

「カタ…カタ…」

その動きは、昼間よりもスムーズだった。まるで、何かが宿ったかのように。

俺は急いで人形を手に取り、背中のゼンマイを確認した。

ゼンマイは巻かれていない。

「…どういうことだ?」

不気味な気持ちを抱えながらも、俺はとりあえず人形を押し入れの奥にしまい、その日は無理やり寝ることにした。

【人形のささやき】

翌朝、目が覚めると、俺はある違和感に気づいた。

押し入れにしまったはずの人形が――机の上に戻っていたのだ。

背筋に冷たいものが走る。

「誰かが動かした…?」

だが、家には俺しかいない。

その瞬間、耳元で微かな声がした。

「おぼえてる?」

ゾクリと背筋が凍る。

声の方向を振り向くと、人形がこちらを見ていた。

…いや、もともとこんな顔だったか?

昨日見た時よりも、表情がほんのわずかに笑っているように見えた。

【人形の正体】

「おぼえてる?」

その声が何度も脳内で響く。

何かを思い出させようとしている――そう感じた瞬間、幼い頃の記憶がふと蘇った。

この人形は、俺のものじゃなかった。

これは、近所に住んでいた幼馴染の「ユウキ」が持っていたものだった。

そして――俺は思い出してしまった。

小学生の頃、ユウキと遊んでいたある日。

俺はこの人形を奪い、面白半分で壊してしまったのだ。

泣きじゃくるユウキを尻目に、俺は人形の部品を捨てた。

その後、ユウキの家族は急に引っ越し、それ以来、俺は彼の消息を知らない。

「…そんなことが…?」

なぜか、あの出来事をすっかり忘れていた。

しかし、今ここにある人形は、まるで俺にその罪を思い出させるために戻ってきたかのようだった。

【最後の夜】

その夜、俺は何度も目を覚ました。

カタ…カタ…

枕元で音がする。

「やめろ…!」

恐る恐る布団をめくると、そこには――またしても人形があった。

だが、今度は違った。

人形の顔は、完全にユウキの顔になっていたのだ。

「おぼえてる?」

その声が最後に聞こえた瞬間、俺は意識を失った。

【エピローグ】

翌朝、目を覚ますと、人形は消えていた。

それ以来、俺は二度とその人形を見ることはなかったが――。

時々、夜中になると微かに聞こえるのだ。

「カタ…カタ…」

そして、あの声が耳元で囁く。

「おぼえてる?」



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