怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

声が聞こえる部屋 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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大学時代、私は古びたワンルームのアパートで一人暮らしをしていた。家賃が安く、駅からもそこそこ近いという理由だけで決めた物件だった。

最初の数週間は特に問題もなく、静かで過ごしやすい部屋だと思っていた。

あの“声”を聞くまでは。

最初の異変

ある深夜、レポート作成に追われていた私は、ふと背後からかすかな声が聞こえることに気づいた。

「……たすけて……」

一瞬、空耳かと思った。しかし、それは確かにはっきりとした声だった。

慌てて振り返ったが、もちろん誰もいない。

アパートの壁は薄いから、隣の部屋のテレビの音かもしれない。そう自分に言い聞かせ、気にせず作業に戻った。

だが、その日以来、同じ声が毎晩聞こえるようになった。

声の主はどこに?

「……たすけて……ここにいる……」

声は、決まって夜中の3時頃に聞こえてくる。

最初は隣人かと思い、隣の部屋のドアをノックしてみたが、住んでいるのは老夫婦で、そんな声は聞こえないという。

階上や階下の住人にも確認したが、誰も心当たりがなかった。

音の出どころは、どうやら部屋の中からだった。

押入れの中から

ある晩、私は意を決して声のする方向を探った。

音は、どうやら押入れの奥から聞こえているようだった。

怖さをこらえて押入れを開け、中を照らす。布団や段ボールの奥に、さらに小さな扉があることに気づいた。

「こんなところに収納スペースが……?」

私は恐る恐るその扉を開けた。

空間の奥に見たもの

扉の奥には、狭くて暗い空間があった。懐中電灯を向けると、そこには古びた木の床と、壁に残る手形の跡。

そして、さらに奥から――

「たすけて……」

突然、耳元で声が聞こえた。

驚いて振り返るが、誰もいない。ただ、自分の心臓の音だけがドクドクと響いていた。

不動産会社への問い合わせ

翌日、私は不動産会社に連絡し、この部屋について尋ねた。

最初は曖昧な返答だったが、しつこく問い詰めると、担当者はしぶしぶ話し始めた。

「実は……その部屋、以前住んでいた方が行方不明になりまして。荷物もそのままで、警察が調べたんですが、結局見つからなかったんです。」

そう、この部屋で誰かが消えていたのだ。

最後の夜

その話を聞いた夜、私は引っ越しを決意して荷物をまとめていた。

すると、またあの声が聞こえてきた。

「ここにいる……みつけて……」

私は最後の勇気を振り絞り、再び押入れの奥の小さな扉を開けた。

懐中電灯の光が差し込む先、暗闇の中で――

何かが、こちらを見ていた。

それが何だったのか、私は記憶が曖昧だ。ただ、無我夢中で部屋を飛び出し、二度と戻ることはなかった。



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