目次
【プロローグ】
大学で心理学の講義を受けていたときのことだ。
その日は「無意識の影響」というテーマだった。
教授は淡々と話しながら、一枚のスライドを映した。
そこには、ごく普通の風景写真が写っていた。
「では、今から10秒間、この写真をよく見てください。」
私は特に意識せずに画面を眺めた。
どこにでもある公園の写真。
ベンチ、木々、遠くに遊具が見える。
しかし、教授が次に言った言葉で、空気が一変した。
【違和感】
「では、この写真の“違和感”に気づいた人は？」
クラスメイトがざわつく。
「普通の公園じゃないんですか？」
「どこがおかしいんですか？」
教授は微笑んだ。
「では、もう一度よく見てみましょう。」
スライドが戻された。
私はじっと写真を見た。
何かがおかしい。
しかし、どこがおかしいのかは、はっきりとはわからない。
もやもやする違和感。
「これ、さっきと同じ写真……ですか？」
誰かがつぶやいた。
教授は軽く頷いた。
「ええ、同じ写真ですよ。ただ――あなたたちの“認識”が変わっただけです。」
【気づいてはいけないもの】
もう一度、写真をじっくりと見つめる。
そして――気づいてしまった。
ベンチの影が、おかしい。
ベンチには誰も座っていないのに、影だけが人の形をしている。
「……あれ？」
違和感に気づいた瞬間、背筋がぞわりとした。
写真の中の影が、こちらを向いている気がした。
次の瞬間、教授がスライドを消した。
「さて、次のテーマに移りましょう。」
【講義の後】
講義の後、気になって教授に聞いてみた。
「あの写真、何かあるんですか？」
教授は少し考え込んだあと、こう言った。
「心理学には、『気づいた瞬間、影響を受ける』という現象があるんです。」
「……影響？」
「気づくことで“認識”が変わる。そして、変わったものは……“消えない”んですよ。」
私は嫌な予感がして、スマホを取り出し、自分を撮った公園の写真を探した。
そこには――
私が座るベンチの横に、“もう一つの影”が映っていた。
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