怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

ぬいぐるみの小さな約束 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

私は昔からぬいぐるみが好きだった。

子どもの頃から、どんなに辛いことがあっても、ぬいぐるみがそばにいるだけで安心できた。

特にお気に入りだったのが、祖母が買ってくれた小さなクマのぬいぐるみ。

ふわふわの毛並みで、黒いボタンの目がついている、シンプルなクマだった。

私はそのクマに「くーちゃん」と名前をつけ、毎晩一緒に眠っていた。

だが、ある日――。

くーちゃんは突然、いなくなった。

【消えたぬいぐるみ】

くーちゃんがいなくなったのは、小学校の頃のことだった。

どこを探しても見つからない。

母に聞いても「知らない」と言う。

「どこかに置き忘れたんじゃない?」

そう言われたが、私は確かに、寝る前にベッドの横に置いていたはずだった。

結局、くーちゃんは見つからなかった。

私は何日も泣きながら眠ったが、次第に月日は流れ、成長するにつれてその記憶も薄れていった。

【ぬいぐるみの再会】

そして、大人になった私は、一人暮らしをしていた。

仕事が忙しく、帰宅するたびにぐったりと疲れてベッドに倒れ込む日々。

そんなある日――。

押し入れの奥から、くーちゃんが出てきた。

「……え?」

確かに、子どもの頃に失くしたはずのクマのぬいぐるみ。

埃ひとつなく、昔のままの綺麗な姿でそこにあった。

「どうして……?」

私は驚きつつも、懐かしさに胸が温かくなった。

【小さな変化】

その日から、私はくーちゃんをベッドの枕元に置いて眠るようになった。

すると、不思議なことが起こり始めた。

毎朝目を覚ますと、くーちゃんの向きが変わっているのだ。

最初は「寝返りで動いたのかな?」と思ったが、どうも毎晩違う場所にいる。

ある日はベッドの端、ある日は机の上、またある日は本棚の横にちょこんと座っていた。

まるで、私を見守ってくれているように。

【くーちゃんの想い】

ある晩、夢を見た。

懐かしい祖母が、優しく微笑んでいた。

「ずっとそばにいたんだよ。」

祖母はそう言いながら、くーちゃんを抱いていた。

「寂しくないように、あなたを守るためにね。」

私は涙が出そうになった。

「くーちゃん、私のそばにいてくれたの?」

祖母は頷いた。

そして、そっとくーちゃんを私の胸に押し当てると――

夢から覚めた。

【エピローグ】

翌朝、くーちゃんはいつも通り枕元にいた。

そして、私はなんだか心が温かくなっているのを感じた。

「ありがとう、くーちゃん。」

くーちゃんをそっと抱きしめると、ぬいぐるみの小さな耳が、ふわりと揺れた気がした。

もしかすると、今でも私のことを見守ってくれているのかもしれない。

――「大丈夫。ずっとそばにいるよ。」

そんな声が、聞こえた気がした。

もし、昔大切にしていたぬいぐるみがあれば――。

久しぶりにそっと抱きしめてみてください。

きっと、それはあなたをずっと見守ってくれていた存在なのだから。



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