友人の田中が、妙な話を持ちかけてきた。
「お前さ、〇〇駅の近くにある“幽霊ビル”知ってるか?」
〇〇駅周辺には古いビルがいくつかあるが、ピンとこない。
「幽霊ビルって……なんだよ?」
田中はニヤリと笑いながら、こう続けた。
「テナントも入らず、何年も放置されてるビルなんだけどな。夜になると、最上階の窓に人影が映るらしいんだよ。」
私は軽く肩をすくめた。
「ありがちな話だな。」
「いや、それだけじゃない。マジでヤバいんだ。最上階に行ったやつは、みんな消えてる。」
「……は?」
「行方不明になったまま、誰も戻ってこないんだってさ。」
田中はどこか楽しげだったが、私は少し嫌な予感がした。
「まさか……確かめに行く気じゃないだろうな?」
「当たり前だろ? お前も付き合えよ。」
目次
幽霊ビルの内部
その夜、田中と二人で幽霊ビルに向かった。
駅から少し外れた場所に、5階建ての古びたビルがひっそりと建っていた。
窓ガラスは汚れ、1階のシャッターには錆びた鎖がかかっている。
「本当に人影なんて出るのかよ……。」
私はぼそっと呟いた。
「行けばわかるさ。」
田中は懐中電灯を手にし、裏口へと回った。
すると、驚くことに裏口のドアは施錠されていなかった。
ギィ……と不気味な音を立てながらドアを開けると、埃っぽい空気が鼻を突いた。
「行こうぜ。」
田中に促され、私は仕方なくビルの中へ足を踏み入れた。
不自然な違和感
中は荒れ果てていた。
壁のペンキは剥がれ、床にはゴミが散乱している。
だが、一つだけおかしな点があった。
埃が全く積もっていない場所がある。
「なあ、ここ……誰か住んでるんじゃないか?」
私は田中に囁いた。
「だとしたら、そいつが“人影の正体”ってことか?」
田中は面白がるように笑い、奥へ進んでいく。
そして、エレベーターの前で足を止めた。
「5階」
エレベーターのボタンが、ぼんやりと赤く点灯していた。
電気が通っているはずのない廃ビルで、なぜ?
「……やめよう。」
私は本気で引き返したくなった。
「何言ってんだよ、せっかくここまで来たのに。」
田中はエレベーターの扉をこじ開けようとしたが、固く閉ざされていた。
「しょうがねえ、階段で行くか。」
5階の異変
階段を上るにつれ、空気が重くなっていくのを感じた。
そして、5階に足を踏み入れた瞬間――
妙な違和感に襲われた。
壁も、天井も、床も、異様に白い。
「なあ……このフロアだけ、異様じゃないか?」
私は声をひそめた。
「確かに……まるで、最近リフォームしたみたいだな。」
埃っぽかった1階とは違い、5階だけが異様に綺麗だった。
まるで、ここだけ別の時間が流れているような――
そのとき。
カチャリ。
奥の部屋のドアが、少しだけ開いた。
消えた田中
「……誰かいるのか?」
田中が懐中電灯を向ける。
部屋の奥に、人影があった。
「おい、お前誰だ?」
田中が一歩踏み込むと、影はすーっと奥へ引っ込んだ。
「待て!」
田中が駆け込む。
私は止める間もなく、田中の後を追った。
しかし――
部屋の中には、誰もいなかった。
「……消えた?」
部屋には、ドア以外の出口はない。
窓も閉まっている。
だが――
田中の姿も、どこにもなかった。
「田中?」
呼んでも返事はない。
まるで、この空間ごと飲み込まれたかのように。
最後の一瞬
私は必死に田中を探したが、彼はどこにもいなかった。
恐怖に駆られ、ビルを飛び出した。
警察に通報しても、そんなビルは存在しないと言われた。
確かにあったはずの建物が――
翌日には、跡形もなく消えていたのだ。
それ以来、〇〇駅の近くで廃ビルを見たという話は聞かなくなった。
だが、ある噂だけが残っている。
「夜、あの駅の近くを歩くと、どこにもないはずのビルの最上階に、人影が見える。」
私は、今でも田中を探している。
だが、彼はもう――
どこにもいないのだろう。
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