怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

目をなくした男 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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プロローグ

「目が、ないんだよ……。」

そう言って、Aは震えていた。

その日、俺は久しぶりに大学時代の友人Aと飲んでいた。

久々の再会だったが、Aの様子はおかしかった。

頬はこけ、目の下にはクマができ、焦点が合わないまま何かを探すように動いている。

そして、酒を数杯あおったあと、Aはぽつりとこう言った。

「俺……目をなくした んだ……。」

第一章:見えないはずのもの

数か月前、Aは仕事のストレスで体調を崩していた。

医者からは「休養を取れ」と言われたものの、Aは休めるような環境ではなかった。

そこで、気分転換にとある「視力回復のトレーニング」 を始めたという。

「目をよくする体操とか、視力を改善するツボとか、そういうのを試してたんだ。」

最初は半信半疑だったが、数週間続けると、Aの視界は明らかに変わり始めた。

「……見えないはずのものが、見えるようになった。」

第二章:余計なものが見え始める

「最初は、ほんの些細な違和感だったんだ。」

Aの話によると、視力が回復するどころか、妙なものまで見えるようになったという。

例えば、通勤中の電車の窓に、誰も座っていないはずの席にぼんやりとした影が見えた。

視線を向けると、その影はじっとAを見つめているような気がした。

しかし、周囲の人には見えていない。

そのうち、街を歩いていると、電柱の陰やエレベーターの隅、何もない空間に「目」 が浮かんでいるのを見かけるようになった。

「目だけが、俺を見てるんだよ……。」

Aは酒をあおりながら、そう言った。

第三章:目を交換する儀式

ある日、Aはとあるサイトを見つけた。

そこには、こう書かれていた。

「不要な視覚を手放し、本来の目を取り戻す方法」

内容は奇妙だったが、藁にもすがる思いで、Aはそこに書かれていた方法を実践した。

それは、夜中に鏡の前に座り、ロウソクを灯しながら、「本来の視界を取り戻したい」と唱える というものだった。

バカバカしいと思いながらも、Aは実践した。

だが――その瞬間、Aの目は暗闇に沈んだ。

第四章:なくなった目

朝、目を覚ますと、Aは異変に気付いた。

目が、何も映さなくなっていた。

いや、見えるのだが、自分の目で見てないない。

誰かの目で見ている感覚がするのだ。

鏡を見ると、Aの目は変わらずそこにあった。

だが、それはAの目ではなかった。

「……これ、誰の目なんだ……?」

Aは恐怖で混乱し、慌てて眼科へ行った。

しかし、医者はAの目を診察した後、困惑したように言った。

「……不思議ですね。あなたの目は、完全に義眼 になっています。」

「義眼……?」

「いえ、何も入れた形跡がないのに、まるで人工の目のような……。」

医者が言うには、Aの目は「生きた目」ではない らしい。

まるで、何か別のものと入れ替わったような――

結末:目の主

「俺の本当の目は……どこに行ったんだろうな……?」

Aは虚ろな瞳で呟いた。

「誰かと、交換しちまったのかもしれない」

その日以来、Aは夜になると鏡をじっと見つめる癖がついた。

何かを探しているかのように、何かに気づくのを待っているかのように。

そして、Aはある日、こう言った。

「……最近、俺の目の中で、誰かが動いてるんだ。」



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