目次
黒神岳(くろかみだけ)という山
黒神岳——それは、北関東の山奥にひっそりとそびえる標高1,200メートルほどの山だ。
地元の人々は「霊山」と呼び、古くから「決して登ってはいけない」と語り継いでいる。
理由を尋ねると、誰も詳しくは答えない。
ただ、「あそこに入ったら帰ってこれないぞ」とか、「山の神が怒る」とか、そんな曖昧な言葉ばかりだった。
だが、俺はそんな迷信を信じるような性格ではなかった。
むしろ、そういう曰く付きの場所に惹かれるタチだった。
だから、登山仲間のタクヤと一緒に、黒神岳の頂上を目指すことにした。
禁足地の鳥居
登山道の入口は、人気のない林道の先にあった。
地図にも載っていないルートだ。
古びた赤い鳥居が立っている。
注連縄(しめなわ)はボロボロに朽ち、木札にはかすれた字でこう書かれていた。
「此処より先、入るべからず」
「うわ……これは雰囲気あるな。」
「こういうのがあるってことは、むしろ何かあるってことだろ?」
俺とタクヤは軽く笑い合いながら鳥居をくぐった。
だが、鳥居を越えた瞬間——
ピシッ……
「え?」
背後で鳥居の柱にひびが入る音がした。
振り向くと、鳥居は変わらずそこにあった。
「……気のせいか。」
気にせず歩みを進める。
静寂の森
登山道はしばらくは普通だった。
ただ、進むにつれ——
異様な静けさに気づいた。
鳥の鳴き声も、風の音すらもしない。
聞こえるのは、俺たちの足音だけだ。
「おい、なんか変じゃね?」
タクヤが不安そうに言う。
「……たしかに。」
こんな静かな山、今まで登ったことがない。
それでも俺たちは登り続けた。
壊れた祠と黒い影
標高900メートル付近で、小さな石造りの祠(ほこら)を見つけた。
屋根は崩れ、周囲には無数の古びた木札が散らばっている。
「これ、祀られてた神様、怒ってんじゃねぇの?」
タクヤが冗談めかして言ったその時——
ガサ……ガサ……
祠の背後の森の中から、何かが動く音がした。
「誰かいるのか?」
俺が呼びかける。
ガサ……
木々の間から、黒い影が見えた。
人……?
いや、違う。
影は妙に歪んでいて、ゆらゆらと揺れている。
次の瞬間——
「見つけた」
耳元で囁かれた気がした。
「うわっ!!」
俺たちは悲鳴を上げ、祠を後にして逃げ出した。
何度も現れる鳥居
必死に山を駆け下りる。
だが、10分以上走っても登山道の鳥居が見えてこない。
おかしい。
普通ならもう降りられるはずなのに。
「おい、ヤバいぞ、道が……」
タクヤが息を切らせながら振り向いた瞬間——
目の前に、また赤い鳥居があった。
「は……?」
「いや、これ、おかしいだろ。」
何度走っても、同じ鳥居の前に戻る。
まるで、俺たちは山に閉じ込められているようだった。
脱出
焦りと恐怖が頂点に達した頃、タクヤが突然叫んだ。
「おい、あそこ!!」
指差す先に、林道が見えた。
俺たちは全速力で駆け出した。
——そして、気がつくと、登山口に戻っていた。
振り向くと、鳥居は変わらずそこにあった。
しかし……
さっきまで朽ちかけていた鳥居が、新しくなっていた。
俺たちは無言のまま車に乗り込み、その場を後にした。
消えた山
数日後、俺たちは黒神岳について調べてみた。
だが、どの地図にもそんな山は載っていなかった。
ネットで検索しても、黒神岳の登山情報は出てこない。
「おい……お前、どこの山に行ったんだ?」
「知らねぇ……でも、確かにあそこにいたよな?」
あの日、俺たちが登った霊山——
それは、存在しないはずの山だった。
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