目次
違和感
ある日、俺は 自分の記憶に違和感を覚えた。
家族写真を見ていた時、ふと 「俺の子供の頃の記憶が、まるで他人事のように感じる」 ことに気づいた。
小学校の運動会。
家族旅行で行った温泉。
七五三で撮った写真。
思い出そうとすると、頭の中には 映像が浮かぶ。
でも、それが まるで映画を観ているような感覚 なのだ。
「…俺、本当にここで育ったのか？」
そう考えた瞬間、心臓がズンと重くなった。
俺の記憶は、本当に 俺のものなのか？
記録の違和感
気になって、アルバムや卒業アルバムを見返した。
写真の中には、確かに俺がいる。家族と一緒に笑っている。
でも、よく見るとおかしなことに気づいた。
どの写真も、俺だけ少しぼやけている。
家族の顔は鮮明なのに、俺の部分だけが違和感のあるぼやけ方をしている。
不安になり、母親に尋ねてみた。
「なぁ、俺の小さい頃の話、聞かせてくれない？」
母は少し驚いたようだったが、優しく微笑んだ。
「もちろんよ。あなたは小さい頃、すごく活発でね…」
でも、その話を聞いているうちに、俺は 背筋が凍った。
母の話す 俺の子供の頃のエピソード が、すべてアルバムの写真の中の出来事と一致している のだ。
いや、それだけじゃない。
話の内容が、写真の説明文をそのまま読んでいるようにしか聞こえなかった。
まるで、母の記憶自体が 「写真から作られたもの」 みたいに——。
消えた記録
不安が拭えず、さらに昔の記録を探すことにした。
家の物置を漁ると、古いビデオテープを見つけた。ラベルには「家族旅行 1998」と書かれている。
俺が7歳の時の映像だ。
すぐに古いビデオデッキで再生してみた。
映像には、温泉旅館の部屋で楽しそうに話す家族が映っていた。
だが——
俺が映っていない。
父、母、姉。三人が談笑している。
俺がいたはずの場所には、誰もいない。
だが、会話の中では 明らかに俺がそこにいるかのように話が進んでいる。
「○○（俺の名前）、お風呂気持ちよかった？」
「また来ようね！」
会話が自然すぎて、ますます怖くなった。
俺、本当にこの家族の一員だったのか？
知らない記憶
混乱したまま、自分の部屋に戻ると スマホのメモ帳が開かれていた。
「……？」
そんなもの、開いた覚えはない。
不審に思いながら画面を見ると、そこには 知らない文章 が書かれていた。
「気づいてしまったね。
思い出さないで。
本当の記憶は、いらない。」
誰が書いたのかも分からない。
いや、そもそも 俺は本当に「俺自身」なのか？
そう思った瞬間——
頭の中に、もうひとつの記憶が流れ込んできた。
知らない家。知らない親。知らない自分。
俺は、違う場所で、違う人生を送っていたはずなのに——
ある日、気がつくと 「今の家族」の中にいた。
作られた記憶 の中で、生きていた。
「——思い出しては、いけなかった。」
そう思った瞬間、意識が遠のいた。
そして、また
目が覚めると、俺はベッドの上にいた。
リビングからは母の声が聞こえる。
「○○、朝ごはんできてるわよ！」
いつもの日常。
……いや、本当に「いつもの」日常なのか？
頭の中の違和感は消えていた。
「……気のせい、だったのか？」
そう思いながら、リビングに向かった。
テレビには、家族旅行の映像が流れている。
俺は思わず画面を覗き込んだ。
そこには、楽しそうに笑う俺の姿が映っていた。
はっきりと。
昨日見たビデオとは違い、俺は確かにそこにいた。
でも、俺は知っている。
この映像は、昨日とは 違うもの になっている。
俺の記憶は、また 作り替えられたのだ。
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