今年の冬は、例年にない大雪だった。
俺は仕事の関係で地方に引っ越し、慣れない雪国暮らしをしていた。
ある朝、大家の田村さんから電話がかかってきた。
「すまんが、玄関前の雪かきを手伝ってくれんか?」
「わかりました」
俺はスコップを持って外に出た。
雪は膝の高さまで積もっており、雪かきは思った以上に重労働だった。
それでも、大家と二人で作業を進め、ようやく道が開けてきた。
「いやぁ、助かったよ。雪って放っておくと固まっちまうからな」
田村さんがそう言った直後、スコップがゴトッと何か硬いものに当たった。
「ん?」
俺は手を止め、注意深く雪をかき分けた。
そして——それを見つけた。
目次
雪の下から出てきたもの
それは、赤い布のようなものだった。
雪をどけると、それが小さな着物を着た人形だとわかった。
「……なんだこれ」
妙にリアルな顔をした、日本人形。
まるで生きているかのような、つぶらな瞳。
しかし、なぜこんなものが雪の下に?
「大家さん、これ……」
田村さんに見せると、彼の顔が一瞬で青ざめた。
「……おい、それは……」
まるで、見てはいけないものを見たかのような表情だった。
「すぐ戻せ!」
「え?」
「いいから、元に戻せ! そのまま埋めるんだ!」
田村さんは震える手でスコップを掴み、俺の手から人形を取り上げると、雪の中に乱暴に押し込んだ。
そして、俺に向かって低い声で言った。
「これは、"掘り起こしちゃいけないもの"なんだ……」
「夜中に聞こえた声」
その夜。
妙な音で目が覚めた。
コト、コト……
何かが窓を叩くような音。
最初は雪が屋根から落ちた音かと思った。
だが、違う。
音は規則的に続き、明らかに意図的に何かを叩いているようだった。
俺は恐る恐るカーテンを開けた。
そこには——
何もなかった。
「……気のせいか」
そう思い、もう一度布団に入る。
すると——
コト……コト……
今度は、玄関の扉を叩く音が聞こえた。
「……誰だ?」
時計を見ると、深夜2時。こんな時間に訪ねてくる人などいるはずがない。
恐る恐る玄関に向かい、ドアスコープを覗く。
しかし、そこには誰もいなかった。
だが——
耳を澄ますと、ドアの向こうから、小さな声が聞こえた。
「……さむい……」
ゾクリと鳥肌が立つ。
俺は、急いでドアの鍵を二重にかけた。
次の日
朝になり、大家の田村さんに昨夜のことを話した。
彼は、険しい顔でうなずいた。
「……やっぱり、起こしちまったか」
「昨日の人形……なんなんです?」
田村さんはしばらく黙っていたが、やがてポツリと語り始めた。
「昔な、この辺りである家族が雪崩に巻き込まれたんだ」
「……家族?」
「ああ。両親は助かったが、幼い娘だけが行方不明になった。」
「……それと、人形が関係あるんですか?」
「その娘が、ずっと大切にしてた人形があったらしい……」
田村さんは、俺を真っ直ぐ見て言った。
「お前が掘り出したのは、その人形だ」
「……じゃあ、昨夜の声は……」
「多分な……"あの子"が、自分の人形を探してるんだろう」
田村さんは深いため息をついた。
「だから、埋め戻したんだ。あれは、そっとしておかないといけないんだよ」
俺は、昨夜のドアを叩く音と、聞こえた声を思い出し、背筋が凍った。
「……さむい……」
あれは、"あの子"の声だったのか?
それ以来、俺は雪の下に埋まっているものを決して掘り返さないと心に誓った。
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