俺の祖父の家には、使われなくなった古い井戸があった。
庭の隅にぽつんと佇むその井戸は、木の板と古びた縄で封じられており、幼い頃から「近づくな」と言われていた。
「何で? 井戸って、ただの水を汲む場所だろ?」
そう祖父に聞いたことがある。
しかし、祖父は険しい顔で言った。
「あの井戸は"もう、ここにはいない者"が覗く場所だからな」
俺はその言葉の意味を深く考えなかった。
——あの日、"あれ"を見るまでは。
目次
廃井戸を覗いた夜
大学生になった俺は、久しぶりに祖父の家へ帰省した。
祖父母はもう亡くなり、今は誰も住んでいない。
懐かしさに浸りながら家を見て回っていると、ふと例の井戸が目に入った。
「……まだ残ってたのか」
木の板は朽ちかけ、縄は今にも切れそうになっていた。
「別に、ただの井戸だよな……」
昔の言い伝えなんて迷信だと思いながら、俺は封じられた木の板を外した。
底は真っ暗で、何も見えない。
「……深いな」
スマホのライトを向けてみた。
その瞬間——
何かが、下から"俺を見上げていた"。
全身が凍りつく。
それは水ではなかった。
"誰かの顔"だった。
青白く、ぼんやりとした顔。
だが、目だけが異様に黒く沈んでいた。
俺は悲鳴をあげ、慌てて井戸の蓋を戻した。
「見られた……!」
訳のわからない恐怖がこみ上げ、俺はその場を逃げ出した。
翌日、異変が起こる
翌朝、俺は祖父の家を出ることにした。
昨日の出来事が頭から離れず、とにかくこの家を離れたかった。
しかし——
車に乗ろうとした瞬間、妙なことに気がついた。
靴の中が、濡れている。
「……なんで?」
靴を脱いで確認すると、冷たい水が滴っていた。
そんなはずはない。
外は晴れているし、どこにも水たまりなんてなかった。
それに——
水の中に、"長い黒髪"が混じっていた。
ゾクリとした。
まるで、"井戸の中の何か"が俺についてきたような気がした。
夜中の気配
その夜、アパートに戻った俺は疲れからすぐに眠りについた。
だが——深夜3時。
「……ゴトッ」
何かが落ちる音がした。
目を覚ますと、部屋の隅に"濡れた木の板"が置かれていた。
それは——
俺が井戸から外した板だった。
心臓が跳ね上がる。
どうして、こんなものがここにある?
その時、耳元で囁く声がした。
「……見つけた」
瞬間、布団の上に"冷たい何か"がのしかかった。
息ができない。
動けない。
視線を動かすと、暗闇の中で——
俺を見下ろす、あの井戸の顔があった。
その黒い瞳が、ニタリと歪んだ。
最後に残ったもの
気がつくと、朝になっていた。
だが、部屋の中にはあの木の板も、何の痕跡もなかった。
「……夢だったのか?」
だが、ふと足元を見ると——
床が濡れていた。
そこに、小さな文字が浮かび上がっていた。
「次は、もっと深く覗いて」
もう、俺は眠れなくなった。
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