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狐の窓──向こう側が見える手 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章──狐の窓の仕草

大学生の佐々木駿は、民俗学を研究するゼミに所属していた。

ある日、教授が不思議な仕草について語った。

「狐の窓というものを知っているか?」

狐の窓とは、親指と人差し指を丸く組み、輪を作る仕草のこと。

「この輪を片目に当てて覗くと、普段見えないものが見えるという伝承があるんだ」

「例えば、隠れた神社や、異界の入り口とか……な」

興味を持った駿は、試しにその仕草をしてみた。

しかし、その時は特に何も変わらなかった。

だが、それは「まだ」だったのだ。

第一章──消えた鳥居

数日後、駿はゼミのフィールドワークで地方の山間部へ向かった。

村のはずれにある神社を調査するためだったが、現地へ着いた途端、違和感を覚えた。

──地図にあるはずの鳥居が、どこにもない。

「おかしいな……」

地元の老人に聞いてみても、こう言うだけだった。

「そんな神社はないよ」

しかし、確かに地図には記されている。

「もしかして……」

駿は、試しに「狐の窓」を作り、その輪の中から村を覗いた。

──すると、そこには赤い鳥居が見えた。

驚き、手を下ろすと……鳥居は、再び消えていた。

「これは……?」

狐の窓でしか見えない神社?

興味を持った駿は、再び指の輪を作り、そのまま鳥居をくぐった。

そして、その瞬間──

世界が、静寂に包まれた。

第二章──異界の村

駿が鳥居を越えると、空気が変わった。

辺りは淡く霞んでおり、見たことのない風景が広がっていた。

──そこには、もう一つの村があった。

道沿いには古い家々が並び、遠くで子どもの笑い声が聞こえる。

しかし、奇妙なことに、どの家の窓も障子も、すべて閉じられていた。

「誰か、いるんですか?」

駿が声をかけると、背後から足音がした。

振り向くと、白い着物を着た少女が立っていた。

「……狐の窓で、ここを見たの?」

少女の瞳はどこか憂いを帯びていた。

駿は戸惑いながらも頷く。

すると、少女は小さく笑い、こう言った。

「もう、帰れないよ」

第三章──狐の隠れ里

「帰れない……?」

駿が聞き返すと、少女はゆっくりと首を振った。

「ここは、人の世とは少し違う場所だから」

「あなたは“見えないもの”を見てしまった。だから、この世界に引き込まれたの」

駿はゾッとした。

「そんな……どうすれば戻れるんだ?」

少女は少し考えた後、ぽつりと言った。

「狐の窓は、“本当のもの”を見るための仕草……」

「でも、一度でもこっち側を見てしまったら、二度と“普通の世界”では生きられない」

駿の手が震えた。

まさか、そんなことがあるのか?

「そんなはずは……!」

駿は慌てて狐の窓を作り、村を覗いた。

──しかし、今度は元の世界が見えなかった。

目の前にあるのは、ただ霞のかかった村と、閉ざされた窓だけ。

駿は理解した。

自分は、もう完全に「こっち側」の存在になってしまったのだ。

終章──新たな訪問者

それからどれくらいの時間が経ったのか、駿には分からなかった。

彼は今も、この霞の村で過ごしている。

ただ、一つだけ変わったことがある。

──時折、この村を覗き込む「誰か」がいる。

指で作った、小さな輪を通して。

駿は微笑み、ゆっくりと近づく。



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