目次
変な音がする部屋
俺が引っ越したアパートは、築30年の古い物件だった。
家賃は相場より安かったが、駅も近くて便利だったので気にせず契約した。
最初の1週間は何も問題なかった。
だが、ある夜——奇妙な音に気づいた。
「カリ……カリ……」
最初は、壁の向こうから聞こえるかすかな音だった。
ネズミでもいるのかと思ったが、夜中になると音が大きくなる。
「カリ……カリ……カリ……」
何かが、壁の中を引っかいているような音。
音の正体を探る
音が気になって、管理人に相談した。
「ああ、それね。昔からこの部屋だけ妙な音がするとかでねぇ……」
管理人は笑ってごまかしたが、言葉を濁したままだった。
その夜、俺は寝る前にスマホで音を録音してみることにした。
翌朝、録音を再生すると——
「カリ……カリ……」
……やっぱり聞こえる。
だが、途中で異変に気づいた。
音が壁の中ではなく、ベッドの下から聞こえていた。
「カリ……カリ……カリ……」
録音データを再生しながら、ゆっくりベッドの下を覗いた。
——そこには、何もなかった。
「聞こえる？」
その夜、音はさらにひどくなった。
「カリ……カリ……」
いや、違う。
「カリカリ……カタ……カタ……」
何かが……這いずっている？
不安になり、スマホを手に取った瞬間——
「聞こえる？」
はっきりと、耳元で囁かれた。
俺は飛び起きた。
部屋の電気をつけ、スマホの録音を確認する。
音の最後に、小さな声が入っていた。
「……そこにいるの、わかる？」
その瞬間、壁の向こうから——
「ドンッ！！」
何かが、壁の内側から激しく叩いた。
「開けて」
翌日、管理人に再び相談した。
すると、管理人はため息をつきながら、こう言った。
「実はね……昔、この部屋の前の住人が、壁の中から変な音がすると言っててね」
「業者を呼んで壁を壊したら、古い人形が出てきたんだよ」
ゾッとした。
「……人形？」
「どうも、この部屋の最初の住人が壁の中に何かを封じていたらしいんだよ」
俺は青ざめた。
昨夜、壁の向こうから叩かれた音——あれは、まさか。
「……その人形、どうしたんですか？」
「供養に出したよ。だから、もう大丈夫なはずなんだけど……」
そう言いかけた管理人の顔が、急に青ざめた。
「いや……待てよ……確か、壁を開けたのって、こっち側じゃなかった気がする……」
違う壁の中に、まだ何かがあるのか？
その夜——
「カリ……カリ……」
また、異音が聞こえ始めた。
そして、今度ははっきりと聞こえた。
「……開けて……」
俺は、すぐにアパートを引き払った。
後日、あの部屋のことを調べたが、過去の住人についての情報は何も見つからなかった。
ただ、一つだけ妙なことがあった。
この物件の過去の間取り図を見ると、俺が住んでいた部屋には、本来もう一つ「押し入れ」があったはずだった。
でも、今は……そんなものは、どこにもなかった。
何かが、その中に閉じ込められたままなのかもしれない。
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