目次
序章──残された日記
中学2年生の藤井翔太には、幼い頃からずっと仲の良い友達がいた。
名前は高橋悠人。
悠人は物静かな性格で、いつもどこか物憂げな雰囲気を纏っていたが、翔太とはよく一緒に遊んでいた。
しかし、ある日を境に悠人は突然学校に来なくなった。
「高橋、どうしたんだろうな……」
誰も理由を知らないまま、悠人は姿を消し、数週間が過ぎた。
そんなある日、翔太の家に見覚えのあるノートが郵送で届いた。
差出人の名前はない。
封を開けると、そこには悠人が書き続けていた日記が入っていた。
表紙には、かすれた字で「暗夜の礫(あんやのつぶて)」とだけ書かれていた。
「……これ、何だ?」
第一章──日記に綴られた奇妙な記録
翔太は恐る恐る日記を開いた。
《7月14日》
今日は翔太と公園で遊んだ。いつもと変わらない日だったけど、帰り道で「それ」を見た。
黒い影。
最初はカラスかと思ったけど、違った。
あれは……人じゃない。
《7月15日》
「それ」は昨日からずっと家の近くにいる。
カーテンの隙間から見える。夜になると、石を投げてくる。
カツン……カツン……って音がする。
親に話したけど、誰も信じてくれなかった。
《7月16日》
今日も「それ」はいる。
暗くなると、また石を投げてきた。
でも、誰もいないはずの庭に石が転がっているのを見つけた。
夜になると、音は近づいてくる。
カツン……カツン……
……どうしよう。
第二章──夜の礫(つぶて)
翔太は読んでいるうちに、手が震えていることに気づいた。
「……暗夜の礫?」
この言葉は何度も日記に書かれていた。
気味が悪くなりながらも、読み進める。
《7月18日》
もうダメかもしれない。
「それ」は玄関の前まで来た。
石を投げる音がすぐ近くでする。
もう、家の中に入ってくる気がする。
親はまだ信じてくれない。
翔太。
もしこれを読んでたら、僕がいなくなったら、「あれ」が来たんだと思ってくれ。
僕の部屋のクローゼットの中に、まだ石があるはずだから。
もし見つけたら、絶対に持って帰っちゃダメだ。
「暗夜の礫」を持ち出したら、次はお前の番になるから。
翔太は、恐怖に全身が震えるのを感じた。
「……石?」
まさか、そんなことがあるはずがない。
しかし、どうしても気になった翔太は、翌日悠人の家に行ってみることにした。
第三章──クローゼットの中
翌日、翔太は悠人の家を訪れた。
玄関には誰もおらず、ドアをノックしても応答はなかった。
不思議なことに郵便受けはぎっしり詰まったまま。
「まさか……誰もいないのか?」
意を決して庭に回り込み、裏口の鍵を確認すると開いていた。
恐る恐る中に入ると、家の中は異常なほど静かだった。
翔太は震える足で悠人の部屋に向かった。
クローゼットを開けると──
そこには、無数の黒く丸い石が転がっていた。
「……これが、『暗夜の礫』……?」
手に取った瞬間、
──カツン……カツン……
背後から、何かが石を投げる音が聞こえた。
「……っ!!」
振り向くと、そこには誰もいない。
しかし、廊下の先から、何かがこちらを覗いている気配がした。
翔太は恐怖で石を落とし、クローゼットを閉じた。
「……ごめん、悠人……」
逃げるように家を飛び出し、もう二度と近づかないと誓った。
終章──最後の日記
その夜、翔太は日記の最後のページをめくった。
《7月20日》
今日は、ついに入ってきた。
暗夜の礫は、もう僕の目の前まで来ている。
明日、僕はいなくなるかもしれない。
でも、これだけは伝えておく。
「暗夜の礫」は誰かが見つけた瞬間、次の持ち主を探しに行く。
だから、石を持って帰らないで。
……頼むよ、翔太。
僕のこと、忘れないでくれ。
日記は、そこで終わっていた。
翌日、学校で悠人のことを担任に聞いてみた。
「高橋? そんな子、最初からこのクラスにはいないよ?」
「……は?」
翔太は絶句した。
まるで、最初から悠人という友達など存在しなかったかのように、全員が彼の存在を忘れていた。
だが、翔太は知っている。
あのクローゼットにある「暗夜の礫」を見たせいで、悠人は消えたのだ。
そして、気づいてしまった。
あの石を持ち帰らなかったのに、昨夜から自分の部屋の窓に石が転がっていることに。
──カツン……カツン……
「……次は、お前だよ」
どこからともなく、小さな声が聞こえた気がした。
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