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【幽霊とすれ違う夜】気づいた時には遅い話 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章:深夜の帰り道

「……終電、ギリギリだったな。」

会社員の 田中翔(たなか・しょう) は、仕事終わりに飲みに誘われ、終電で帰宅することになった。

時刻は深夜1時。

駅から自宅までは徒歩15分ほど。

普段なら気にならない距離だが、深夜の住宅街は異様に静かで、夜風がやけに冷たく感じる。

「……早く帰ろ。」

田中は早足で歩き始めた。

しかし、その夜は妙な違和感があった。

誰もいないはずの道なのに、どこかから視線を感じる。

「……気のせいだよな。」

そう思いながら、田中は人通りの少ない裏道を選んで進んでいった。

第一章:すれ違う人影

5分ほど歩いたところで、前方から人影が見えた。

「こんな時間に誰かいるのか……?」

その人物は、フードを深く被った女性だった。

顔は下を向いていて、表情は見えない。

「……まあ、普通の人だよな。」

そう思いながら、田中は歩き続けた。

すれ違う瞬間、女性はゆっくりと顔を上げた。

田中は一瞬だけ、その顔を見た。

—— 目も鼻も口もない、真っ白な顔だった。

「……え?」

驚いて振り返ると、誰もいなかった。

「……気のせい、だよな。」

酔いが回っていたせいかもしれないと、自分に言い聞かせる。

再び歩き出すと、後ろからコツ……コツ……と足音が聞こえた。

振り返る——

誰もいない。

「……早く帰ろ。」

足早に自宅へ向かった。

第二章:もう一人の人影

あと5分ほどで自宅に着く頃、また前方から誰かが歩いてきた。

今度は、スーツ姿の男性。

「……こんな時間に?」

妙にうつむいた姿勢で、スーツの男性は田中のほうへ歩いてくる。

すれ違う瞬間、田中は絶対に顔を見ないと決めた。

だが、気配が近づくにつれ、異常な寒気が襲ってきた。

「……っ……」

横を通り過ぎる瞬間、

すぐ耳元で、はっきりと声が聞こえた。

「……こんばんわ……」

「うわあぁぁっ!!」

田中は思わず振り向いた——

誰もいない。

「やばい……やばい……」

全速力で自宅へ走った。

第三章:すれ違ったもの

やっとの思いで自宅にたどり着き、玄関のドアを閉めた。

「はぁ……はぁ……」

心臓が異常に早く打っている。

「……気のせいだよな……」

そう自分に言い聞かせながら、部屋の明かりをつけた瞬間——

ドアの外から、再び足音が聞こえた。

コツ……コツ……コツ……

「……嘘だろ……」

田中はドアスコープを覗いた。

そこには誰もいない。

「気のせい、気のせい……」

震える手で鍵をかけ、ベッドに倒れ込んだ。

しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻し、スマホを開いた。

ふと気になり、田中は地元の都市伝説を検索した。

『○○区周辺 深夜のすれ違い幽霊』

そこには、こう書かれていた。

《すれ違い幽霊の噂》

深夜1時から3時の間、この地域では幽霊とすれ違う現象が報告されている。

・最初はフードを被った女性。
・次はスーツ姿の男性。
・どちらも、すれ違いざまに声をかけてくることがある。

絶対に立ち止まってはいけない。
絶対に振り返ってはいけない。
もし振り返ってしまうと——

「……え?」

スマホの続きを読もうとした瞬間、

コン……コン……コン……

玄関のドアをノックする音が鳴った。

「……誰だよ……」

恐る恐るモニターで玄関を見る。

そこには——

フードを被った女と、スーツ姿の男が並んで立っていた。



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