目次
序章──地図にない村
大学生の佐藤悠斗は、友人の高橋とともに、山奥でキャンプをすることになった。
スマホの地図アプリで調べると、山道の先に「村」があるらしい。
「この村の近くなら、水場もあるし、キャンプにちょうどいいんじゃね?」
「確かに。でも、こんな山奥に村なんてあったか?」
「まぁ、とりあえず行ってみようぜ」
こうして二人は車を走らせ、目的の村へ向かった。
しかし、進んでいくうちに奇妙なことに気づいた。
スマホの地図では確かに村があるはずなのに、ネットで検索しても村の名前が出てこない。
「変だな……」
そして、村に近づくにつれ、電波が途切れ、スマホの地図もフリーズした。
「まぁ、キャンプするだけだし、大丈夫だろ」
そう楽観的に考えながら、二人は村へと入っていった。
第一章──奇妙な村人たち
村に到着すると、思った以上に人の気配があった。
小さな木造の家々が並び、畑仕事をする老人や、遊ぶ子供たちの姿が見える。
「こんな山奥なのに、結構人がいるんだな」
二人が車を停めると、村の男たちが近づいてきた。
「お若いの、どこから来た?」
「すみません、ここでキャンプをしようと思いまして」
すると、村の男たちは顔を見合わせた後、にこりと笑った。
「それは良かった。ぜひ泊まっていくといい」
「え、でも……」
「遠慮するな。我々の村は客人を歓迎する」
村人たちは、やたらと親切だった。
食料を分けてくれると言い、古びた民家の一室を貸してくれると言う。
「なんか……逆に怪しくないか?」
「まぁ、親切なだけかもな」
二人は不安を感じつつも、せっかくの好意を受けることにした。
しかし、村にはいくつかの奇妙な点があった。
・村人たちの服装がどこか古い。
・時計をしている人が誰もいない。
・村のどこにも電柱や電線がない。
「まるで、時代が違うみたいだな……」
その夜、悠斗と高橋は村の広場で焚火をしながら、村人たちと酒を酌み交わした。
しかし、夜が更けるにつれ、あることに気がついた。
──この村の人々は、誰も「村の外の話」をしない。
第二章──キャンプの違和感
「東京の方から来たんですけど、皆さんは都会に行ったことあります?」
悠斗が何気なく尋ねると、村人たちは一瞬だけ無表情になり、すぐに笑顔に戻った。
「……ここはいい村だろう?」
「え、あ……まぁ」
「なら、それでいいではないか」
会話はそれ以上続かず、村人たちは「もう遅いから」と言って家に戻っていった。
「なんかさ……変じゃね?」
「うん、確かに」
二人は違和感を抱えたまま、村のはずれにある広場にテントを張った。
そして、深夜。
悠斗がふと目を覚ますと、外から何かの音が聞こえた。
ザッ……ザッ……ザッ……
人が歩く音だ。
テントの隙間からそっと覗くと──
村人たちが、テントを囲むように立っていた。
「……っ!!」
彼らは一言も喋らず、ただ静かに立っている。
悠斗は、この村には何か「隠されたルール」があるのではないかと感じた。
そして、気づいてはいけないことに気づいてしまった。
──村人達には影がなかった。
第三章──村の秘密
朝になり、村人たちは何事もなかったかのように振る舞っていた。
「やっぱり、おかしい……」
悠斗と高橋は、村を離れることを決意した。
しかし、車のエンジンをかけようとすると、バッテリーが上がっていた。
「え? 昨日まで普通に動いてたのに」
「……まさか」
不安になった二人が村人に助けを求めると、彼らは笑顔でこう言った。
「なぁに、急ぐことはない。もう少しここにいればいい」
その瞬間、二人は直感した。
──この村に閉じ込められる。
「いえ、やっぱりすぐ帰らないと」
「そうか……なら、仕方ないな」
村人たちはそう言うと、村のはずれに続く小道を指さした。
「では、あの道を進むといい」
「……本当に?」
「信じるかどうかは、自由だ」
疑いながらも、二人は荷物をまとめ、小道を進んだ。
終章──奇妙な帰還
小道を抜けると、なぜか車のすぐそばに出た。
「……え?」
エンジンをかけると、問題なく動く。
「マジで何だったんだよ……」
二人は慌てて車を走らせ、村を後にした。
しばらくして、ふとバックミラーを覗くと──
村が、消えていた。
道路の先には、ただの深い森が広がっているだけ。
「……おい、村、どこ行った?」
「そんな……俺たち、昨日まであそこにいたよな?」
恐怖を覚えながらも、二人は二度とこの道を通らないと誓った。
後日、地図を確認すると、やはりあの村の記録はどこにもなかった。
しかし、悠斗のリュックの中になぜか一つの包みが入っていた。
中を開けると、そこには古びた紙が一枚。
「また来るといい。」
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