目次
奇妙な119番通報
俺は救急隊員として働いている。
ある夜、119番指令室から出動要請が入った。
「◯◯団地、12号棟4階。意識不明の傷病者」
普通の出動要請だと思っていた。
だが、団地の住所を聞いた瞬間、助手席の先輩隊員・斉藤が微かに顔をしかめた。
「……あそこか」
「何か知ってるんですか?」
「いや……ただ、あの団地、やたらと救急搬送が多いんだよ」
「事故が多いんですか?」
斉藤は少し間を置き、低い声で言った。
「……“群霊が出る”って噂があるんだよな」
冗談だろ、と思いながらも、俺は背中に冷たいものを感じた。
意識不明の住人
団地に到着し、問題の12号棟へ向かった。
エレベーターで4階に着くと、通報したという住人が扉の前で震えていた。
「こ、ここです……!」
ドアを開けると、部屋の中央に男性が倒れていた。
仰向けで、目をカッと見開いたまま、全く動かない。
脈を確認すると、微弱ながら生きていた。
「よし、すぐに搬送する!」
ストレッチャーに乗せ、俺たちはエレベーターへ向かった。
だが、ここで異変に気づいた。
ストレッチャーが異様に重い。
「……あれ?」
普段なら成人男性一人を乗せても、ここまでの重さは感じないはずだ。
それどころか、何かが上からのしかかっているような重圧感がある。
斉藤も違和感を覚えたのか、顔をしかめていた。
だが、それよりも不気味だったのは——
ストレッチャーの上の男性が、何かを見つめていることだった。
目を大きく見開いたまま、エレベーターの天井をじっと見つめている。
「おい……何を見てるんだ?」
その瞬間——
エレベーターの照明が、一瞬だけ消えた。
そして、暗闇の中で、複数の囁き声が聞こえた。
「……おろして……」
「……のせないで……」
「っ!!?」
慌てて非常灯が点く。
エレベーターの壁には、無数の手の跡がついていた。
斉藤が小さく呟いた。
「……これ、やっぱり“群霊”か」
霊を運ぶ救急車
ストレッチャーを救急車に乗せ、俺たちは病院へ向かった。
だが、搬送中、車内の温度が異常に下がり始めた。
「寒くないか?」
「いや……寒すぎる」
8月の真夏なのに、息が白くなるほど冷えている。
そして——
後部ミラーを見ると、ストレッチャーの上に倒れた男の周りに、何か黒い影が群がっていた。
——いや、“群霊”が張りついていた。
顔のない人影が、ストレッチャーにのしかかるようにして、男を掴んでいる。
「……ここに……置いていけ……」
その瞬間、車が大きく揺れた。
「ヤバい!!」
俺はすぐに運転席の斉藤に叫んだ。
「スピードを上げろ!! このままじゃヤバい!!」
斉藤も状況を察し、アクセルを踏み込んだ。
群霊は救急車の中で呻くような声を発しながら、次第に薄れていった。
そして、病院の敷地に入った瞬間——
ピタリと気配が消えた。
温度も戻り、車内の異様な空気が消えた。
「……ついてこなかった、か?」
安堵し、ストレッチャーを見ると、患者の目が動いた。
「……助かった……?」
そう思った瞬間、男が小さく口を開いた。
「……次は……お前だ……」
男の唇が、不気味な笑みを浮かべた。
俺は背筋が凍った。
そして、ふとミラーを見た。
そこには、遠ざかる団地の影——
ベランダや窓から、無数の顔が、じっと俺たちを見つめていた。
群霊は、まだそこにいる。
そして、また新たな誰かを呼び寄せるのだろう——。
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