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ほんの少しの隙間
新しいアパートに引っ越して、もうすぐ1ヶ月。
職場にも近いし、部屋もきれいで家賃も安い。特に不満はなかった。
……最初の違和感を除けば。
俺の部屋には、いつも少しだけ開いている隙間がある。
例えば、クローゼットの扉がほんの1センチだけ開いている。
押し入れの襖が微妙にずれている。
バスルームのドアがかすかに開いている。
最初は気のせいかと思っていたが、どうやら違う。
「……ちゃんと閉めたはずなのにな。」
気になって閉めても、翌朝になるとまた少しだけ開いているのだ。
誰かが開けているのか? いや、鍵はかかっているし、不法侵入の形跡もない。
「……まぁ、気にしすぎか。」
そう思うことにした。
隙間ちゃんとの会話
ある夜、寝ようとしていると、ふと気配を感じた。
クローゼットの扉が、1センチだけ開いている。
「……またかよ。」
閉めようと近づくと、クローゼットの隙間から小さな声が聞こえた。
「……こんばんは。」
「……え?」
驚いて後ずさる。
「誰だ?」
クローゼットの隙間から、かすかに光る目がこちらを覗いている。
そして、幼い女の子のような声がした。
「わたし、隙間ちゃん。」
「……え?」
「隙間があるところにいるの。」
「……えぇ……?」
頭が混乱する。
だが、不思議と怖さはなかった。
それどころか、隙間ちゃんと名乗るその存在は、どこか楽しそうな雰囲気だった。
「……なんで俺の部屋にいるんだ?」
「隙間があるから。」
「お前、何者なんだよ。」
「隙間ちゃん。」
……会話にならない。
それでも俺は、なんとなく彼女の存在を受け入れつつあった。
隙間が消えるとき
それからというもの、俺は隙間ちゃんと話すのが日課になった。
クローゼット、押し入れ、本棚の間、ちょっと開いたドアの隙間……
彼女はいつもどこかの隙間から覗いていた。
「今日は会社で嫌なことがあったんだよ。」
「ふーん。でも、ここは静かでしょ?」
「まぁな……」
俺は不思議と、彼女の存在に安心感すら覚えていた。
しかし、ある日——
部屋に帰ると、すべての隙間がきっちり閉じられていた。
クローゼットも、押し入れも、風呂場のドアも、ぴったり閉まっている。
「……あれ?」
違和感を覚えた俺は、試しにクローゼットの扉を少し開けてみた。
「隙間ちゃん?」
……返事がない。
彼女はどこにもいなかった。
その瞬間——
背後の本棚から、ザザザッ……と何かが這い出てくる音がした。
「……え?」
振り向くと、本棚と壁の間に異常に大きな隙間ができていた。
そこから、まるで闇が流れ込むように黒い何かがうごめいている。
「……入れ替わり。」
耳元で、小さな声が囁いた。
「……隙間ちゃん?」
その瞬間——
俺の視界が、真っ暗になった。
隙間の向こう側
目が覚めると、俺はどこかの隙間の中にいた。
暗闇の中、わずかに開いた隙間から、俺の部屋が見える。
そこには——
俺の姿をした何かが、いつものように部屋にいる。
「……え?」
そいつは笑っていた。
クローゼットの隙間に映る俺に向かって、微笑みながら言った。
「こんばんは。わたし、隙間ちゃん。」
俺は叫ぼうとしたが、声が出なかった。
ここは、もう俺の部屋の中ではない。
隙間の向こうで、新しい"俺"が暮らし始めるのを、俺はただ見ることしかできなかった。
そして——
誰かがまたこの部屋に引っ越してきたら、今度は俺が「隙間ちゃん」として覗く番なのかもしれない。
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