金曜の夜、職場近くの居酒屋。
ビールジョッキを片手に、何気ない仕事の愚痴を交わしていた時だった。
後輩の村瀬(むらせ)が、急に真面目な顔になってこう言った。
「先輩……俺、最近ほんと変な体験しまして。ちょっと、聞いてもらえます?」
普段は陽気な村瀬の、珍しく真剣な声色に、俺も思わず耳を傾けた。
目次
【後輩が体験した"音のないトンネル"】
「この前、友達と夜のドライブしてたんですよ。
峠道を越えてる途中、小さなトンネルに差し掛かって。
何てことない古いトンネルなんですけど……入った瞬間、違和感に気づいたんです。」
村瀬は、ビールの泡をじっと見ながら続けた。
「車内の音、エンジン音、タイヤが地面を転がる音、全部……突然消えたんですよ。
窓も閉めてないし、ラジオも電波入ってたのにスッ……と全部無音。」
俺は思わず、「それ、車の不具合か耳鳴りか何かじゃないのか?」と口を挟んだ。
「そう思いますよね?でも、友達も同時に同じ違和感を感じてたんです。
全員が一言も話せなくなるくらい、音が吸い取られる感じ。」
【出口が見えないトンネル】
「そのトンネル、普通は長さも知れてるはずなんです。
でも、走っても走っても出口が見えない。
無音の中で、ただただヘッドライトの照らす範囲だけが続いてて、
メーターを見ると、もうとっくにトンネルを抜けてる距離走ってるんです。」
「で、やっとのことで出口が見えたんですよ。
ただ……出口の先に同じトンネルが繋がってた。」
【時計が止まった世界】
「その瞬間、ダッシュボードの時計を見たら、夜2時43分のままピクリとも動いてない。
スマホの画面も同じ時間で固まってたんです。
でも、走ってるはずなんですよ。景色はずっと同じトンネルの中で。」
村瀬は、静かに水を飲み込んだ。
「で……ついに諦めて車を止めたんです。
降りようと思った瞬間、友達の一人が助手席の窓を指さしたんです。」
そこには——
窓に、無数の手形。
「一斉に何かが『外から』車を囲んでたんですよ。音は無いのに、圧迫感だけがすごくて。」
【現実への戻り方】
「全員、パニックで叫んで……でも声も聞こえないんです。
耳は聞こえてるはずなのに、自分の声すら消えてる。
それでも、運転手の友達がアクセルを思い切り踏み込んだら、急に音が戻った。
『ゴオォォォ』ってエンジン音が響いて、気付いたら
トンネルの出口をとっくに過ぎた山道を走ってました。」
時計を見たら、夜2時44分。
——1分しか経っていなかった。
【トンネルは存在しない】
後日、不思議に思ってもう一度その道を調べた。
地元の人に聞くと、
「その道には、トンネルなんて元々ないよ。」
「どうやら俺たち……存在しない道を走ってたみたいです。」
村瀬はそう言って、少し乾いた笑いをこぼした。
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