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【保険のおばちゃんが来た日】 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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突然の訪問

春先の昼下がり、在宅ワーク中の俺のもとにインターホンが鳴った。

モニターをのぞくと、スーツ姿の女性が立っていた。

「こんにちは。保険の見直しで回ってるんです。少しだけ、お時間いいですか?」

どこか懐かしい雰囲気のおばちゃんだった。暇だったこともあり、玄関先で話を聞くことにした。

どこか引っかかる説明

おばちゃんは優しい笑顔で、話し上手だった。

だが説明の最中、ふと妙なことを言った。

「あなた、去年の○月○日に健康診断行ってませんでしたよね? あの日、急に胸が苦しくなったでしょう?」

確かに俺はその日、検査をサボった上に夜に胸が痛んだ。

家族にも話していないことだった。

「……どうして知ってるんですか?」

おばちゃんは笑ったままこう答えた。

「お客様の“これから”を考えるのが、私たちのお仕事ですから。」

翌日の不審

翌日、気になって職場の同僚にその話をすると、こう返ってきた。

「うちにも来たよ。先週の話だ。」

同僚いわく、見た目も話し方も全く同じ。だが、不思議なことを言った。

「保険の話をしてたのに、今は亡き母親の話を詳しく知ってたんだよ。」

他にも、職場の何人かが同じ“保険のおばちゃん”と会っていた。

全員が口をそろえて「妙に個人的なことを当てられた」と話した。

地元の噂

数日後、近所の古い喫茶店で、その話をマスターにすると、思いもよらない言葉が返ってきた。

「ああ、そのおばちゃん……それ、たぶん○○保険の営業の人だろ?昔この辺を回ってた人さ。」

「昔?」

「もう10年も前に事故で亡くなってるよ。」

俺は絶句した。

置いていかれた名刺

慌てて家に戻り、渡された名刺を確認すると、電話番号も社名も、今は存在しないものだった。

だが裏面には、ボールペンで一言だけ手書きされていた。

「次の更新日が来たらまた伺います。」

次の更新日は——来週だ。



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