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幻覚の中の真実──見えてはいけないもの 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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■1. 疲れのせいだと思っていた

社会人になり、忙しい毎日を過ごしていた頃の話だ。

連日の残業と睡眠不足で、昼間もぼんやりする日が続いていた。

ある日、仕事帰りに自宅のエレベーターに乗ったとき、隅に誰かが立っているのが見えた。

黒いスーツ姿の男だったが、顔がぼやけて見えない。

疲れて幻覚でも見ているんだろうと、自分に言い聞かせた。

エレベーターを降りると、男の姿はもうなかった。

■2. 繰り返される「幻覚」

それからというもの、同じ黒いスーツの男が、ふとした瞬間に現れるようになった。

部屋の窓の外、電車のホーム、コンビニのガラス越し。

目をこすると消えるが、毎回同じ無表情で顔のない男。

「きっと疲れのせいだ。」

そう思い、週末にゆっくり休んだ。

だが、次の月曜日。

会社のデスクでパソコンを開いたとき、画面の反射に男の姿が映っていた。

今度は、消えなかった。

■3. 幻覚じゃなかった

夜になると、男の姿はさらに鮮明になった。

布団に入っても、目を閉じた瞬間、すぐ隣に気配を感じる。

そして、耳元で囁く。

「見つけた。」

慌てて飛び起きるが、部屋には誰もいない。

本気で精神科の受診を考え始めた翌日、同僚から奇妙な話を聞いた。

「お前さ、昨日の帰り、知らない男連れて歩いてたろ?」

「え?誰もいなかったけど。」

「黒いスーツの男。後ろ、ぴったりついてたぞ。」

その瞬間、背筋が凍った。

■4. 真実は、幻覚の外に

それ以来、男は「幻覚」ではなく、確実に現実に存在していると確信した。

部屋の隅、駅のホーム、街灯の下。

見つけようとしなくても、いつも視界の端にいる。

もしかしたら最初に「幻覚だ」と思ったあの日から、もう何かが俺のそばにいたのかもしれない。

今もふとした瞬間、視界の隅に黒い影が揺れる。

そして今夜も、耳元でささやく。

「次は、お前が見えなくなる番だ。」



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