目次
■1. 古い写真
祖母の家を片付けていたとき、埃まみれの古いアルバムが出てきた。
ページをめくると、家族の写真に混じって、見覚えのない無表情な女の人が立つ写真が何枚もあった。
どの写真にも同じ女性が写っていて、顔だけが不自然にブレたように歪んでいる。
不気味に思い、祖母に尋ねると、祖母は一瞬沈黙してからこう言った。
「……その人はね、うちの家とは縁が切れてるはずなんだけど……まだいるのかね。」
■2. 夜ごと響く気配
その夜から家の中で奇妙な現象が起こり始めた。
誰もいないはずの廊下から足音、寝室の襖が勝手に開く音、そして明け方近くになると決まって耳元で聞こえる声。
「……まだここにいるよ。」
怖くなり、祖母に再び相談した。
すると祖母は、静かにお焚き上げの話を始めた。
「昔ね、あの人とはいろいろあって写真を処分しきれなかったんだよ。けど、ちゃんと送り出してやらないとね。」
■3. お焚き上げの夜
数日後、祖母に連れられて地元の小さな神社へ行き、アルバムごと写真を預けた。
神主が焚き火を組み、静かな読経とともに写真が炎に包まれていく。
火が写真を飲み込むたびに、どこか部屋の隅で感じていた重い空気がすっと軽くなる感覚があった。
最後のページまで焼き尽くしたあと、神主が言った。
「これで、もう帰らないでしょう。」
その夜から、不思議と家の中は静かになり、あの声も足音も二度と聞こえなくなった。
■4. 終わりと始まり
お焚き上げの火の中、最後に燃え尽きる直前の写真が、まるで女の顔が笑っているように見えたのは、気のせいだろうか。
けれどそれ以来、不思議と家の中にあった違和感は完全に消えた。
「やっぱり、お焚き上げって大事なんだな。」
古いものには、古いものなりの送り方がある。
今はそう信じている。
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