春先の引っ越し準備中、実家の押し入れから見覚えのない古い手紙の束が出てきた。
黄ばんだ便箋には達筆な文字でぎっしりと文が書かれているが、差出人も宛名もない。内容はほとんど同じ言葉の繰り返しだった。
——「早く返して」「返して」「待っている」
不気味だったが、家族に尋ねても誰もその手紙のことを知らない。捨てるのも気味が悪く、とりあえず箱に戻しておいた。
目次
【1. 手紙が呼ぶ夜】
その夜から、寝ていると部屋のどこからか「カサッ、カサッ……」と紙の擦れる音が聞こえるようになった。
電気をつけても、何も動いていない。
だが朝になると、机の上にあの手紙の束が置かれている。何度戻しても、同じことが繰り返された。
さらに不思議なのは、手紙の文字が増えていくことだった。
「待っている」「早く返して」「早く気づいて」
——書き足された文面は、日に日に怨念じみたものになっていた。
【2. 寺でのお焚き上げ】
ついに限界を感じ、地元の古い寺に手紙の束を持ち込んだ。
住職は手紙に目を通すと静かに言った。
「これは、長く家に縛られていたものです。誰かが大事にしまい忘れたのか、それとも“わざと”隠したのか…。お焚き上げで、きちんと送りましょう。」
その日の夕方、お焚き上げの火に手紙を入れると、風もないのに炎が一瞬だけ大きく跳ね上がった。
燃え尽きた灰は、すっと風に乗って静かに消えた。
【3. 静かな夜】
それ以来、部屋から紙の音が聞こえることはなくなった。
夜も安心して眠れるようになり、手紙が机の上に現れることもない。
「ちゃんと返せたんだな」
お焚き上げの火に包まれたあの瞬間、確かに、どこかで“ありがとう”という声を聞いた気がした。
人は物を捨てるとき、思い出ごと置き去りにしてしまうことがある。
でも、きちんと送り出してあげれば、静かに眠ってくれる。
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